ヘンリー

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 「私はね、何よりも人の不幸話が大好きなんだよ。だってほら、優越感に浸れるだろう?自分より下が居るってねえ。あぁ・・・どうして理由=不幸かってのはね、決まっているからだよ。私から答えを聞きに来る者達は皆、この上ない不幸や絶望を味わったから訪ねて来るってね。此処は最終手段みたいな所だからさ。」  クククッと薄気味悪い笑い声を上げながら、牧師は更に続けた。  「それにさ、不幸って振り返りたくない物だろう?それを思い出して、初対面の相手に全て打ち明けて、話さなければならない。それって物凄く屈辱で嫌ぁ~な事だよね?その時のあの歪んだ顔を見るのが、たまらなく好きなんだよ。」  楽しそうに話す牧師に、ヘンリーは眉を顰めた。  「悪趣味だな・・・。」  そんなヘンリーの言葉も、牧師には褒め言葉に聞こえる。  「良い趣味だよ。実に人間らしくて、素直でねえ。」  眉を顰めながらも、牧師の言う事に間違いは無いと思ってしまう自分に、ヘンリーは黙り込んでしまった。  確かに、身近な者でも他人でも、何らかの不幸が降り注いだ事を耳にすると、同情したり憐れみを感じると同時に、心のどこかでは己より悲惨な者が居る事を知り、安心してしまっている自分が居る。しかしそれを表に出せば、周りから批判を浴びるのは目に見えている。だから誰しもがその心を隠すのだ。自分の心の中だけに仕舞い込み。それに比べ、牧師はそれを隠す事なく、逆に求めている。皮肉な事に、誰よりも正直で素直なのかもしれない。     
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