アイスとかき氷

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アイスとかき氷

 梅雨が明けると、いよいよ前期中間テストが訪れるが、今回は四人とも追試を免れる結果になり、特に秀は国語をベースに文系を補強し、理系は伸びしろが多い分、格段に平均点が向上したが、それでも順位を二十位ほど上げるのが精一杯となったが、確かな手ごたえを感じることができ、勉強を教えてくれた親友に、テストの返却後に間違った箇所を教えてもらい、きっちりと固めていっている。  そんな、秀のやる気を身近で感じていた雪道も、結果に嬉しくなり、二人は肩を組みあって結果を見せ合っている。  雪道も、いつもならば夏が近づく季節柄、萎えていることが多いが、今年はいつも通りに振る舞おうとしているのか、顔色が若干優れなくとも、寧音たちとの関わりを多く持とうとしていた。  放課後になれば、自然と集まる四人がそれぞれのやりたいことをするが、千香は学年が違うこともあり、また周りの友だちとの関係も重視したいと言っていた彼女は、今日は別行動している。  そして、図書室では日常となっている二人の勉強会と一人の読書が行われていた。  秀は、これまで同様に全般的に平均点よりも下回っている理数系を徹底的に克服していきながら、一番の苦手でもある歴史を補いつつ、息抜きに得意な国語や古文をやっていく。  寧音は自己啓発本を数種類読んだが、特に感動したのは新幹線の清掃チームの本で、今度気にしながらお仕事を拝見できたら良いと考えていた。  そして、日が落ちるのが遅くなっても、図書室が閉まる時間はいつも同時刻に訪れてくる。    最近は、いつも雪道に声をかけていた先生は、気にしてくれているのか、声をかけずに肩を優しく叩いて、目で促してくれるようになった。  そして、帰り道は久しぶりに三人で帰ることになったが、いつもは寧音を真ん中にするかたちで横並びで歩くのが「当たり前」であったが、今日は雪道の隣を歩くようにしていた。 「なあ、秀は急に勉強を始めてどうかしたの?」 「え? 千香からなんか聞いてない?」 「千香ちゃんから? 特にこれと言って何も聞いてないけど。」 「そうか、ならあまり大きい声で言えないけど、俺にもちょっとした夢があってね、叶うかわからない夢だけど、ちょっとは努力してから諦めようと思って」 「なんか珍しいな、秀がそんなふうに取り組むのって」 「たしかに、学校の球技大会ぐらいしか張り切っていないかと思ったけど」 「おいおい、お二人さんずいぶん酷いな、そんな目で俺を見てたのかよ」  夏の手前の季節には珍しく、さわやかな夕方の風に、三人の笑い声が乗って遠くまで響いていく。 「雪先輩! おはようございます」  次の日は珍しく、下駄箱の近くで千香に出会った雪道、寧音は委員会の活動もあって、今日は一緒ではない、元気にあいさつしてくる彼女の周りには、彼をマジマジと見つめる友だちがおり、まるで品定めをしているような目つきをしていた。   「おはよう、今日も元気だね、その元気を分けてくれると助かる」 「無理ですね、私も空元気だったりしますから」  冗談のような口調でにっこりと笑う千香から、元気をもらうと放課後に集まる約束をして、彼女は自身の教室へと向かった。 「すごいね、本当にもらえるとは…。」  少しだけ、彼氏である秀が羨ましくなった彼だが、やはり苦手なモノは苦手で、手で顔を仰ぎながらノタノタと歩いていく。  昼休みになると、寧音が雪道の教室に出向いて食事をとるときがあるが、それは珍しく教室に彼女の友だちがいない場合のみで、年に数回あるか無いかの出来事であるが、それに引き換え、秀は毎日のように雪道の机に近寄ってきては、彼手製のオカズを狙いにくるのであった。  今日の狙いは、磯辺揚げで市販のや冷凍と一番の違いはなんといっても、その香りにあった。  口いっぱいに広がる青のりの香りに、歯ごたえのよい竹輪ちくわがあわさると、なぜこうも美味しいのか、その疑問を解決するには、食べるのが一番と言い張り、有無を言わさず弁当から強奪すると、幸せそうに噛みしめていく。    しかし、雪道は特に気にした様子もなく、有り体に言えばこれが彼らの日常であり、一番居心地のよい空間なのだ。   「なあ、雪よ」    続けて二個めの磯辺揚げに箸をのばしながら、梅干しおにぎりを食べている雪道に声をかけるる。  一つ情報を加えるならばおにぎりは二個あり、両方梅干しなのだが、はちみつ梅と塩辛い梅干しの二種類を彼は用意している。 「ん?」 「お前、寧音のこと好きか?」 「質問の意図がわからない」 「そんなことしてると、誰かにとられるぞ」 「だから、それはどういった意味で好きということなんだ?」 「それ、ガチでわかんないなら、気付いたときには大切な存在をなくしているぞ」  それを言うなり、手のひらを合わせて「ごちそうさまでした」と告げると、教室から出ていってしまった。 「なんだ、あいつ、勉強しすぎて沸いた?」  二つ目のおにぎりを食べると、はちみつの優しい味がする梅干しのはずなのに、なぜか今日は少しだけしょっぱく感じた。 「メイクよーし、服装よーし、笑顔よーし!」  鏡の前でかれこれ二時間以上、一人でファッションショーを繰り広げている千香が、よくやく動き出しのが、待ち合わせの四十分前であり、急いで駅へと向かう。  今日は久しぶりに秀と二人で遊びにいく約束をしており、寧音や雪道は珍しく個々で先約があると断られたが、それでも彼女は単純に嬉しく、とても楽しみにしていた。  今日行くところは、夏休み直前とあって本音は水着の買い出しだったが、それは寧音と二人で行こうと言われており、こっそり秀に雪道の好みを聞く作戦であったが、それはまた今度の機会にまわし、郊外のアウトレットモールに期間限定で併設されている、迷路で謎解きもできるお化け屋敷をめぐりに行くのだ。  お化け屋敷が大好きな千香にとっては、とても心が弾むイベントであり、友だちも誘ったが、全員に断られた。  なにせ、お化け屋敷のキャッチフレーズが『逃げ出せない恐怖』なうえに、書き込まれているレビューが問題だったのだ。
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