1 St.バレンタインデーの『伝統』 

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 「テラさんもとうとう、独身貴族を卒業かぁ・・・結婚してもたまには遊びに来てよね~」 「礼子さん、食べる?」  小野寺がチョコレートの箱を差し出すと、スナック『フェアウェル』のママの礼子は塩を撒く勢いで断った。 「いらないわよ!他人(ひと)がもらった本命チョコなんて、食べれるわけないじゃない!・・・もしかして何、モテ自慢?」  小野寺は礼子ににらまれ、すぐさま箱を引っ込めた。 なくなった熱燗に変えてウィスキーのロックを注文する。  礼子ママが出してくれたダブルのそれを口に含み、チョコレートを一粒、適当に選んで摘まんでみた。  店で食べないでよ!と礼子は言わなかった。 そんなゆるいところも、小野寺がこの店をひいきにしている理由の一つだった。  他の理由に、店の名前がフェアウェル、つまり別れというのが面白いと思ったからがある。  食べたチョコレートの中にも洋酒が練り込まれていたが、ウィスキーとの相性はけして悪くなかった。 ・・・ただ、酔いそうだったが。  本命チョコをもらったから即結婚!というのは、出逢いの機会が多いとは言えない、けして若くはない自分だから当てはめられたのだろうか?と、小野寺は苦笑する。  しかも、くれた相手は男なのだから、現行の日本の法律上ではそれは有り得ない。  しかしそれは時期尚早、考え過ぎだとしても、そもそも本当に本命チョコなのかどうかは確かめておかないといけないな。とは思った。
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