第三話

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日吉町にあるカフェーは、女給仕が売りで珈琲や洋食を扱うサロン形式の店だ。それは名ばかりで、上階の財閥が集う他言無用の店がここの主である。 株取引関係者が集うこの店は、有島に噂を聞き探し出したのだ。 そこで聞いた情報と資料で、売りか買いかを見極めている。今のところ全勝。今日もある程度、情報収集が出来た。 後は酒を飲んで音楽を楽しむ。いつもは和装の有島たが、今日は洋装だった。落ち着かないのか先程から酒が進んでいた。 「おまえ、さっき言っていた面白いもんってなんだ?」 「……俺さ実はこの時代の人間じゃないんだ。時久だけど知久なんだ。信じるか信じないかは有島に任せるよ」 俺は構わず椅子から立ち上がった。 「今から証拠見せる」 志賀にも見てろって言ったんだけど。 ピアノを演奏する黒人に声を掛けた。俺は一礼しピアノの前に腰掛け、この時代にはない曲を弾いた。当然、サロン内がざわつき皆がこちらを見ている。徐々にベースやドラムが俺の音に合わせて入る。どこからか手拍子がなり、踊り出す者も現れ大いに盛り上がった。俺は立ち上がり一礼をした。止まない拍手の中、有島の元へ戻った。 「……もしかして青木子爵の嫡男じゃ?」 「やっべ! 逃げるぞ!」 俺と有島は走って階段を降り、カフェーを出た入口で志賀に会った。 「若様、こちらです」 俺は志賀の手を握った。その後ろを有島がついてくる。俺達が馬車に乗り込むと動き出した。 「義朗様まで巻き込んだんですか。貴方って人は」 俺は二人の複雑な表情が可笑しくて堪らず吹き出した。 「本当に時久じゃないのか?」 「有島に任せるって言ったろう?」 「そんな笑うなよ」 「ごめん、だってさ」 「大丈夫なのか?」 「暫くは彼処に行けないかな」 「いや、そうじゃなくて」 「細かい事は気にすんなって、送っていくよ」
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