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有島を邸宅まで送り、俺は暫く志賀の屋敷へ居座る事にした。
「若様、離して下さいませんか」
志賀が繋いだ手を持ち上げて言う。いつ言われるか試していた。最近、志賀が小言わない。俺が正体明かした時から困ったような表情をするようになった。
俺は手を離し、馬車を降りて志賀邸に入った。一番奥の引き戸を開けた。ベッドのない狭い和室。俺はここが気に入っていた。
「やはり客間をお使いになられてはいかがですか?」
「いい、この方が落ち着く。それよりここに書いた人物に、彼処の株を手放すように仕向けろ」
「ですが彼処は」
「爵位なんてどうでもいいんだろう?」
「今更、変えられません」
「大丈夫不利にならない。悪どい手口で増やした財産、少しくらい減っても構わないだろう。…仕事の話は終わり」
俺は立ち上がり志賀の側に座り、手をもう一度握った。
「父上の容態は?」
「よろしくありません」
「そうか。志賀、父上が好きか? それとも時久?」
志賀の目が俺じゃなく、時久を探してるような目をする。応えないのは分かっているのに、聞きたくなる。側にいると触れたくなる。これは時久の感情なのか?
「・・・」
「いいよ応えなくて。俺にはどうでもいい」
志賀のネクタイに指をかけ解き、色白の肌に触れた。
「時久様……」
「その名を呼ぶなんて狡い」
俺は止めた手を小さな突起へ滑らせた。その手を志賀が阻止する。
「時久様こんなこと」
「俺は時久じゃない!」
知久だ!
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