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俺と志賀は馬車に乗り青木本邸へ走り出した。その道中、俺は馬車から見える街並みや行き交う人々を眺めていた。
「時久様、そんなに珍しいですか?」
「久しぶりだから気になって」
俺を見る志賀の遠慮ない目線は、使用人という立場を重んじているようには思えない。
この男…何を考えているんだ。時久でないのがバレるのも時間の問題か。
俺はどうしたらいい……
青木本邸は洋館の造りの豪邸だった。志賀の他に使用人と女中が数人に出迎えられた。
「若様、ご体調はいかがですか?」
後ろにいる志賀を見た。やはり俺を見ている。なにか勘づいているのか。こういう時、時久はどう応えていたんだろう。
「ああ、もう良くなったよ」
「左様でございますか」
「時久様」
使用人を遮って志賀が俺を呼んだ。志賀の目は命令するように鋭く俺を見た。
「こちらです」
「……ああ」
俺は志賀に呼ばれた方へ歩き出した。その後を志賀がついてくる。あるドアの前で志賀が止まりドアを開けた。
「こちらが書斎でございます。どうぞこちらへお掛け下さい」
広い室内に大きい机、革張りの椅子に促され座った。志賀が棚にある分厚い本を何冊か手に取るとこちらへ戻ってきた。
「青木子爵家について知りたければこちら、そして勉学を復習なさるおつもりならこちらも全てお読み下さい」
広い机の上に本が積み上がった。それは二日かかりそうな量だった。
「マジか」
「ま…じ?」
口を押さえた俺を志賀が不審な目で見ている。俺は構わず目の前に積み上がった本を手に取った。
「若様、失礼申し上げますが本当にどうなされたのですか?」
「何が? どうもしないよ」
「時久様は利き手が右、今の若様は利き手が左……どういう事でしょう?」
「今は言いたくないって言ったろ?」
俺は志賀を強く睨んだ。怯むことなく、志賀は遠慮ない目線を向けてくる。
「私の目を欺く事は出来ませんよ若様。これ以上咎められたくなければ、私の出したこちらの書籍を今日中に終わらせる事ですね。では後程参ります」
そう告げると志賀は書斎を出て言った。俺は、机の上にある分厚い本の山を見て大きなため息を吐いた。
「くそ! やってやろうじゃねぇの!」
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