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「若様!」
「やべっ!」
志賀が冷ややかな目でこちらを見ていた。小さくため息を吐くと持っていた本を閉じた。
「若様、居眠りですか。貴方が青木子爵家についてお知りになりたいと仰ったのですよ」
「分かってるよ! 小煩い家令だなぁ」
「貴方の言葉遣い私は兎も角、旦那様や他の使用人の前ではお止め下さい。これも追加します」
「はぁ?! 俺は理系なんだよ。ああ、頭痛がしてきた」
「残念ですが時久様は文乙です。ですから」
「はいはい、読めばいいんだろ」
何か言いかけて志賀が口を閉じた。俺が目線を向けると視線を逸らす。
「何も聞かないんだな」
「若様が言いたくないと仰ったでしょう。 また参りますから、今度は居眠りなさらないで下さいね」
志賀の背中を目で追った。容姿と立ち振る舞いは完璧なのに……
「本当、ムカつくやつ!」
*
「ああ~ やっと終わった」
最後の分厚い本を読み終え背表紙を閉じた。辺りはもう暗くなっていて、今気付いた空腹感に項垂れた。
「腹減ったな」
志賀のやつ何処にいった?
書斎からそっと広い廊下を伺った。現代では資料館になっていそうな邸宅で、無駄がなく豪邸にしては殺風景だった。どこからか声が聞こえ、俺は書斎から出て周囲を見渡した。 数歩先のドアが少し開いていて、中の声が外に漏れていた。そのドアに近付き中を覗いた。よく聞こえなかった声が志賀ともう一人は____
「……旦那様、お止め下さい」
「おまえは本当に悠樹に似ているな……」
「……っん!」
広い机に志賀が腰掛け、旦那様と呼ばれた男はこちらに背を向けいて顔が見えない。抵抗する志賀に男は構わず唇を合わせキスをする。男の唇が志賀首の筋へ移り、ネクタイに手を掛け解いた。シャツの間から覗く白い肌に男の手が触れる。
俺は志賀を助けようとドアノブを掴んだ。志賀と目が合い、来るなと強い目でこちらを睨んでいた。男との淫らな行為中、志賀はずっと俺から目を離さない。俺は元の書斎に駆け戻った。
俺を見る志賀の目……おまえも同じだろうと言われているみたいだった。
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