0人が本棚に入れています
本棚に追加
オニキスとリュカは二人で魔道具を販売する店を経営している。
オニキスは技術を
リュカは事務を
オニキスは魔術師としても腕が立ち、街の人々の評判も良い。そのためオニキスの技術を学びたいと街から魔術協会を通して講演の依頼が舞い込んでくる。オニキスとしても技術の共有は望むところなので、できる限り協力したいと思っている。しかし、時折講演を引き受けたはいいものの、ネタに困まってしまい、締め切りに追われることがあった。
その日もオニキスは週末の講演の資料作りに追われていた。朝早くに起き、顔を洗い、朝食を取り、仕事に取り掛かるつもりだった。ところが、
「なんか飽きてきた」
オニキスは朝食に出されているポテトサラダを頬張りながら唐突に切り出した。
「どうしたの?急に」
ポテトサラダを頬張りながら難しい顔をしているオニキスにリュカが反応する。
「いや、このポテトサラダおいしいんだけど、ちょっと飽きてきたから、なんか新しい味が欲しいなと思って……」
「あのね……まあ、いいわ。わたしも作ってていつもと同じなのもどうかと思ってたから」
リュカは失礼な、とは思いながらもリスのごとく頬を膨らませているオニキスの姿に怒る気が失せた。
「じゃあ、決まりだ。紙とペン持ってくる」
「いいの? 今週末、講演あるんでしょ?」
「いいから、いいから」
オニキスが羊皮紙と羽ペンとインクを持ってやってきた。作業台の上に散らかっている小物を強引に隅に寄せ、羊皮紙を広げる。インクの蓋を開け、ペン先をインクに浸す。ペン先にインクが染み込んでいく。インクが十分にしみ込んだペンを羊皮紙の上に持っていくとわしゃわしゃとペン先を走らせる。決して綺麗とは言えない字で『新しいポテトサラダの考案』というタイトルが羊皮紙の上に現れる。
「よし!」
オニキスは鼻息を荒くし、さながら一仕事終えた労働者のような達成感に浸り始める。
「よし! じゃないでしょ。言い出しっぺのあんたがそれでどうすんの! 始めるよ」
「はーい」
最初のコメントを投稿しよう!