前書き

5/7
前へ
/7ページ
次へ
 それから、二人の間でいろんな意見が交わされた。材料から調理方法、主となる芋の種類の選定、切り方、大きさの変更、ドレッシングの見直し、挙句の果てに過去の文献を持ち出し、ポテトサラダの定義まで多岐にわたった。  その間オニキスは度々繰り出されるリュカの専門用語を理解するのに四苦八苦していた。それでも、必死に食らいつきながらも羊皮紙に書き留めていく。羊皮紙は徐々に文字で埋まっていった。  昼食も忘れて続けていると、オニキスは空腹を感じたので、朝食の余りのポテトサラダを冷蔵室から持ってきた。二人で分け合い食べ始める。口の中に芋の甘さとドレッシングの甘酸っぱさが広がる。  あれ? おいしい。オニキスはあらためてリュカのポテトサラダの美味しさを噛みしめる。そしてこう思った。  今のままでいいんじゃないか?  しかし、そうは思ったものの真剣な眼差しで考えてくれているリュカの姿を見ていると今更切り出していいものか迷った。それに、やっぱりまだ見ぬ新たなポテトサラダを食べたいという願望が勝った。  そうして、二人の『会議』はさらに熱を帯びていった。オニキスは食べたいという食欲から。リュカはさらにいいものを編み出したいという探求心から。 「芋の大きさをこのように変えてみたらどう?」 「ダメ。それじゃこふき芋でしょ。ポテトサラダにならない」 「うーん。確かに。そう言われてみるとそうだな」  どうにかして落としどころを見つけようとしているうちに昼も過ぎる。ぽかぽかと心地よさそうな太陽の光が窓越しに入ってくる。 「ここでこのまま考えていても思いつかないから外に出よう」  オニキスは居ても立っても居られず、気分転換も兼ねて外に出ようと提案する。 「どうするの?」 「ポテトサラダと言えばまず芋だから、芋を見に行こう」 「うん、それいいね。行こう」
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加