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休日の商店街では多くの人で賑わっていた。骨董品、武器、薬草、アクセサリーといった物騒なものを取り扱う店と混在するように食材屋が並ぶ。露店には様々な品物が所狭しと並べられ、立ち寄った人々が物珍しそうにのぞき込んでいる。二人はその中でも、穀物を専門に扱っている店に向かった。
「いらっしゃいませ。あらリュカ? 珍しいね」
店主は客がリュカだとわかると、態度を崩した。
「こんにちわ」
「……こんちわ」
オニキスは場違いな気がして、気まずそうになりながらも挨拶をした。
「今日はどうしたの?」
「いやね、新しいポテトサラダのレシピを考えようと思ってたんだけど、行き詰って。それでとりあえず芋を見ようと思って。なにかいいものはあるかしら?」
「それなら、最近流通するようになった品種があるんだけど……」
「それ、見せてもらえる」
「うん。いいよ」
店主が見せてくれたのは少し赤みがかった色をした芋だった。
「これ、ちょっと変わった色してるけど、甘みが強く粘り気があって向いてると思う。ただ……」
「ただ……」
「ちょっと独特の香りがあって調理方法を工夫しないと、合わなくなるかもしれない。そこが気がかりかな」
「どんな香り?」
「ちょっと切ってみるね」
「ありがとう」
まな板を持ってきた店主がその場で、二つに切ってみせる。それをリュカが覗き込む。オニキスも後ろから何とか見ようと背を伸ばす。まな板の上で二つに割れた芋の中の肉色はうっすら赤くなっているのがわかる。そして独特の香りが鼻についた。例えば木の幹の匂い、あるいは水の匂い、風の匂い、それらが混ざり合ったような。なんといえばいいのかしばらく思いつかなかったが、ようやくそれは「土の匂い」だと行きつく。
「土の匂いね」
「土の匂い……そうかあ」
なるほどといった様子で店主は同意する。
「でも、たしかにこの匂いをうまく利用できればいいかも」
「どうする?」
「うん。これちょうだい。あと、ここにある品種のもの全部」
「全部? いいの?」
店主は目をぱちくりさせる。
「いいの」
「そうなったアンタは止まんないだろうし。いいわ。あと、他の野菜とかはいい? 必要じゃない?」
「商売上手ね。いいわ。買った」
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