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『ウィゼル』
ウィゼルは大きく太ったネズミだった。
「あら、チーズ屋がバケツをぶちまけた、ですって?」
大きな耳をはためかせてふんふんと鼻を振る、ウィゼルは賢いネズミなのだ。
とっとと駆けて行きチーズをくすねる。
「まったく、ダメな子なんだから。」
ウィゼルはチーズ屋をしつける作法もわきまえている。入ってきた壁の割れ目の前で三度くるくると回り、最後に一度優雅にお辞儀をする。おなかが少しつかえるのは愛嬌だ。
ところで、ウィゼルというのはオコジョのような動物のことである。
帰り道の下水道でウィゼルは考える。
「子供にネズミを食べる生き物の名前を付けるなんてママやパパは無神経なんじゃないかしら。」
ぱたぱたと尻尾を地面に打ち付けて考える。ふんふん。ふん。ふふん。
朝焼けのようなビー玉が、天井から雫がガラス玉のようにすうと落ちる。
ぴちょんと落ちた水玉の音に体温を取り戻したネズミは
「考えてみたって分からないことは分からないわね。今度聞いてみなくちゃ。」
そう呟きながらおしゃれな足取りで住処(いえ)に帰るのだった。
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