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「ああ」
俺はジャケットを、入り口のコートポールからひったくるように取る。歩きながら腕を通し、悟について外に出た。
マンションの目の前がチューブの駅だ。
あと二分ほどで到着する筈だ。悟がコインを俺と歌織に渡した。これでチューブに乗るのだ。
コインを入れて改札を抜ける。すぐ目の前が乗り口だ。時間丁度に到着したチューブの扉がゆっくり開く。降りる人を待ってから乗り込んで、適当にあいている席に腰を下ろした。
「どこだ?」
「四つ先、三分程度だな」
「判った」
寝る暇もないな。ぼんやりと外を眺めていた。
このチューブと呼んでいる乗り物は、床以外はすべて透明。文字通りチューブの中をイスがついたカプセルが飛んでいくと考えればいい。カプセルは全部で十七個連結されている。どうやって動いているか、などの原理は知らない。俺が地球にいた頃はこんなものはなかった。この時間はまだまだすいている。七時を過ぎた頃がピークか。
「着いたぞ」
悟の声に我に返り、奴の後ろを歩く。隣に歌織がいる。
「すぐそこのマンションの二階だ。表向きの名前は辰巳興業だ」
歩いて一、二分でマンションに着いた。階段で二階まで上がる。
「歌織、頼むぞ」
「はい。────どうぞ」
早いな。ドアは光彩生体認証ロックだ。悟がノブに手をかけたときにはすでに開いていた。
勝手に入っていくと、ソファーに三人が座ったまま寝ていた。三人とも片側に寄せ、真向かいに俺たち三人が腰を下ろす。
「歌織、全員起こしてもいいぞ」
「はい」
とすぐに三人は目を開けた。俺たちを見止めてぎょっとする。
「なんだお前等は?」
真ん中の醜悪そうな面構えの小太りな親父が怒鳴る。
「ジャスティス。名前は知っているだろう」
こういうときはすべて悟が喋る。俺はただ黙って見ているだけだ。
「…………」
「知らないのか?」
「知っている」
「ならば斉藤祐子さんの件から手を引け」
「……交換条件は?」
「ない。この場で即、示談書を書け」
「…………。お前等こそ、辰巳の名前を知らないようだな」
「知らないよ、そんな小物」
悟はおとなしい顔の割に、相手を怒らせることにはかけては、天才的な頭脳を持っていると感じる事がある。というか、わざわざ怒らせなくてもいいだろうと言う場面でも、これをやる。
「交換条件がないなら帰れ。斉藤には利用価値がある。手を引く事などあり得ない」
「…………」
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