justice

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 妙だな。俺たちの内誰かが“眠り姫”だと言うことはすでに判っている筈だ。なのに辰巳のこの余裕はなんだ?  と、歌織がここで妙な行動をおこした。テーブルの上のメモ用紙を一枚破って、隣のペンを取り辰巳に差し出す。 「はい。示談書を書いてください」 「…………」  その場にいる全員が意味が判らずに固まる。  悟が一瞬早く気づいた。テーブルの上の電話が一回だけ鳴る。────なるほど。 「辰巳、お前“ブレーカー”だな?」  辰巳がにやっと笑い、メモとペンをテーブルに置き、ソファーにふんぞり返る。 「判ったら帰れ。今ならおとなしく帰してやるぞ」  莫迦が。電話がなった意味を考えろ。  歌織がもう一度ペンとメモと取り、辰巳に差し出す。 「はい、ですから示談書を貰ったら帰ります。今書けばおとなしく帰りますよ」  これはおもしろい。歌織も結構いい度胸だ。これはかなりの戦力になる。 「“ブレーカー”だって言ってるのが判らねぇのかよ」  辰巳が怒鳴る。 「じゃあ、何故先ほど電話が鳴ったのでしょう?」 「あ?」 「大沢悟の名前を知っているのなら、判るでしょう? 残念ですが、私も”ブレーカー”なのですよ。あなたの“ブレーカー”は使えません。私が先に封じ込めました」 「…………」  “ブレーカー”対“ブレーカー”の勝敗は、実は時間差だけでは決まらない。完全にクラスの上下だけだ。これは俺たちが金星で所属していたアルの作った情報屋VIA(ヴィーナスインテリジェンスアソシエーション)の科学院の研究で判明した事だ。それを確認するために悟は電話を鳴らしたのだ。  黙ったまま動かない辰巳。  じゃあ、少し暴れるか。悟に目配せをする。と、家中の電話が鳴り出した。テレビも大音量で勝手につく。一瞬だけだ。すぐに静かになる。  と、辰巳の両隣の男が首をかくんと落として眠りについた。俺は目の前のクリスタルの灰皿を粉にする。 「……判った」  ここでようやく辰巳が折れた。  引き際もわきまえてるって事か。伊達にこの世界で生きてはいないってことだ。 「これでいいだろう?」  悟がメモを一通り読み、ポケットにしまう。 「結構」  といって席を立つ。併せて俺たちも席を立つ。 「じゃあ、二度と斉藤さんには近づかないように」 「おい、ちょっと待て、こいつ等を起こしていけ」  歌織に目配せをする。歌織が頷いた一瞬あとに、二人が目を覚ます。  辰巳の目が少しおかしい。
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