justice

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 とりわけ、この俺、槇村優一朗と、大沢悟の存在が驚異となる。大沢悟はすべての電子機器を自由に操ることが出来る、世界でただ一人の”魔術師”である。どのような警備システムもすべて無効化可能どころか、衛星軌道上の迎撃システムや、あらゆるシステムを自在に操れてしまう。親和性というレベルの話ではない。シリコンを使用した機器なら、電気的に操れるのだ。たった一人だけでも無敵の人物となり得た。これに弟の慎悟と俺が加わり、手始めに全世界の二十%の軍事航空機を破壊。森村礼子による、一切の危険を伴わないスケジューリング、甲斐巧美の極秘情報入手、公開。これらはすべてアルベルト・ムークの指揮の下に行われた。  どちらの国もこのたった八人に、一切手が出せない状態になる。  選ぶのは“魔術師達”側だったのである。  どちらの国が選ばれたのかは、今になってみればどうでも良い事ではあるが、カリスマ性を持った指導者がいた国が選ばれた。理由は簡単である。この指導者を失う訳にはいかない国が、悟等の親である、大沢誠悟博士のアンドロイド技術により、延命措置を受けていたからだ。たったそれだけの理由である。このカリスマ指導者の身体には、多くの電子機器が使用されている。悟が操る事は極簡単な事である、という理由のみである。  市民権は両国政府が認めていたこともあり、比較的簡単に事はすんだ。その後、水面下で”魔術師達”の浮動票の奪い合いが広げられてはいたが、先にあげた八人は一切関知せず、アルベルトの計画通りに事を進め、カリスマ指導者のいる統合政府を完成させた。  その後、金星から再度地球に戻った者は約半数、八万人程度であった。    ☆ 「悟さんって、ここの所長の事よね?」  俺の前のソファーに座った青山歌織が不思議そうな表情で尋ねる。 「そうだよ。ついでに二十六歳、俺の二つ上だな」  俺はぶっきらぼうに答えた。  そもそもここに二人きりにされた事が気に入らないのだ。十二年ぶりの再会、元恋人同士である。一体何を語れと言うのだ、と俺はこの状況に追い込んだ悟の神経を疑った。歌織も歌織である。よく俺と二人きりになるつもりになったものだ。  仕方なく俺は、この事務所のメンバーの話をする羽目になったのだ。
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