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なにを言っているんだこの女は。
「嫌ってなんかいねぇよ。むしろ逃げたのはお前の方だろ?」
「あ、ほら。またさっきの繰り返し」
歌織は下を向いたまま上目遣いに俺を睨む。
「ああ、すまん。もう蒸し返すのはやめようぜ。あの時はお互いの心が離れていっただけだ。俺もお前もそれを責めちゃいけない」
歌織は下を向いていた顔を上げ、ゆっくり頷いた。
「判った。じゃあ、これからは仲間、でいいのね?」
「ああ。そうだ」
礼子さんが歌織の手を取って俺に差し出す。俺も右手を差し出して歌織の手を握った。
「はい、これで仲直りね」
「喧嘩なんかしてねぇよ」
「もういいからそれは。歌織もそれでいいわね?」
「うん」
そういうわけで、我がジャスティスに新しいメンバーが増えた。今後どうなっていくのやら。
「そう言えば今のお客さんは?」
無理矢理話題を変えようとして、俺は悟に訊いた。
「ああ、下の階の祐子ちゃんだよ。事故を起こしたらしく、困ってるって」
今の時代の車同士で、事故は普通あり得ない。ナビ同士で連携がとれているためだ。
「うちの仕事じゃないだろ」
「ところがそうでもない。おそらく事故は仕組まれたものだ。事故自体は大した事はないが、トランクに積んであった壺が割れたらしい。保険では弁済しきれない金額だそうだ。そこで父親の会社の情報を流せと言ってきたらしい」
まあ、このマンションに住んでいるのだから、相当な地位の持ち主か、有名人かのどちらかだ。あの莫迦高い家賃を払えるのだから。結構な情報を持っている奴等も住んでいるだろう。
因みにこのマンション、すべては悟の個人所有だ。
「相手は?」
「同じく情報屋。ちょっと調べたが、相当あくどいまねをして情報を仕入れているらしいな。料金も結構たかい」
「端から見ればうちだって同じじゃねぇかよ。それでどうするって言うんだよ。うちは単なる情報屋だぜ」
「ジャティスの名前を忘れたか」
悟が俺の目を見て言う。
「…………。判ったよ。話つけに行ってくる」
俺は悟のこの目に逆らえない理由がある。それはまだ俺が地球に戻った頃の話だ。
十二年前、俺はまだ十二歳だった。ただ“発病”したという理由だけで拘束され、無理矢理金星に連行されたのだ。歌織と離れた直接の原因。
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