justice

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 “ブレーカー”は特別扱いを受けていて、船に乗せられる事がない。だが、俺たちには巧美がいたから、船の出航時間を知っていた。巧美の話はあとでしよう。知ってはいたが何も行動は起こさなかったのだ。言い訳にしかならないが、十四歳のガキになにが出来るというのだ。その船に乗せられた、俺が一番かわいがっていたアリスは当時まだ九歳だったのだ。  船の周りは“ブレーカー”でがっちりと固められていた。どうしようもない、と自分達に言い聞かせ、俺たちは船を見送ることしかしなかった。  その怒りが未だに俺の中に残っている。自分への怒りもあるのかもしれない。  毎日どこかしらの組織を破壊しては家に戻ってくる俺に、それまでずっと黙って見ていた悟は、最後に一言だけ言った。 「俺たちはジャスティスなのだ」  その目を見てから、俺は一切の破壊活動をやめた。悟の言葉に納得したのか、その悲哀に満ちた瞳に何かを見つけたのかは、今となっては判らない。 「俺も一緒に行く。歌織も連れて行こう」  悟が言う。 「歌織も?」 「“眠り姫”だろ? 侵入しやすいだろう」 「それじゃあ、話しあいにならないじゃないか」 「入ったら起こせばいい」  なるほど。 「じゃあ、午後三時半に家を出て、チューブに乗って」  礼子さんが言う。ならそれに従うのが一番の近道だ。あと二十分。 「判った」 「それまでお茶でも飲んでなさい。つもる話もあるでしょ」  おい、また二人きりにするつもりか。  と、悟と礼子さんは出て行ってしまった。  しばらくしてから歌織がしゃべり出す。 「ホントいうとね、話は昨日礼子さんから聞いているの。優一朗がここに戻ってからの事も全部。だから私に構ってられなかったっていうのも判るのよ。二年前の話だしね。それまでずっと会ってなかった訳だし。恋人って感覚じゃなかったのかな? 当時はまだ十一歳だったしね」  歌織がここに来てから始めて笑顔を見せた。 「まあ、そうかもな。ガキの頃の話だ。忘れはしないが封印しよう」 「あ。それいい言葉。封印ね。うん。忘れないよ。私も」 「しかし通信だけでよく十年も続いたな」 「そうね」 「ここに住むのか?」 「うん。その方が安全だって。敵も結構いっぱいいるから、別々に住むのは危ないって」 「そうだな」  それ以上は話すことがなくなってしまった。二人でずっとお茶を飲んでいた。  時間近くになると、悟が顔を出した。 「出るぞ」
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