ありふれた恋の物語

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 少しでも外の景色を見て、少しでも外の空気を吸わなければ、自分が外の世界で生きていたことを忘れてしまいそうだった。  一際薄暗く、錆びの目立つ最上階の階段を登り、屋上の扉に手をかける。  屋上は10畳ほどのスペースに自動販売機とベンチが一つずつあるだけだった。  自動販売機は中に陳列されたサンプルが乱れており、そのほとんどが売り切れという文字を表示していた。  ひび割れたコンクリートの地面を歩き、俺は自動販売機で買った何時のものかもわからないコーヒーを片手にベンチに腰を下ろす。  ドアの隣に置かれた自動販売機とは対極の位置に置かれたベンチに座り、屋上から見えるただの町並みを眺める。  たった2週間ほど入院しているだけなのに、自分が目の前に見える町で暮らしていたと実感することができない。  どれほど時間がったのだろうか、惚けるように空を眺めていると、唐突に屋上のドアが開いた。  音にびっくりして扉の方を見ると、短い髪の毛を風になびかせる一人の女の子が立っていた。  自分と同い年ぐらいの女の子は「あああああ!僕の特等席!」と言って俺を指差す。   これが、俺と彼女が知り合った時の話だ。  正直、最初は彼女のことを男だと思っていた。  女の子にしては高めの身長と低めの声をしており、髪も短く胸も無かった。     
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