ありふれた恋の物語

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 極め付けは彼女の一人称だ。彼女は自身のことを「僕」と言う。  多分ほとんどの人間は初めて彼女と知り合った時、男だと判断するだろう。  そんな彼女は入院生活を送る中での俺の同志だった。  つまり、同じ病気を患った患者だということだ。  彼女は体の中でも胃と肝臓、さらには肺が片方機能しておらず、次は心臓にその前兆があるらしい。  俺と彼女が侵されている病はその影響を受ける器官は違えど、同じ病なのだそうだ。  俺と彼女は知り合ってからの毎日、検査の後に屋上で落ち合って話をするのが日課となった。  将来の話や好きな食べ物、入院する前の生活や趣味、色々な話をした。  病気を患っているにもかかわらず、自分よりも元気に気丈に振る舞う彼女はとても眩しかった。  彼女との話で一番多かった話題は将来の話だ。  彼女は将来、中学教師か小説家になりたいそうだ。   元気の塊みたいな彼女には似合わないと思った。  俺が「似合わない」と言うと、彼女は少しだけ怒った。    二人が時間を共有するようになって2週間。俺が入院してから1ヶ月のことだった。  いつものように屋上のベンチに並んで座り、いつものように話をしていた時、「ねぇ。君は余命何ヶ月なの?」と彼女は聞いてきた。     
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