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君の声
目が覚めて時計を見てみると、昼寝する前とほとんど同じ時間を針がさしていた。
おかしいなと思い時計を外して調べてみる。
「……壊れてやがる」
携帯の時間を見てみるとお昼の三時少し前だ。
いい時間だ、そろそろ出よう。
家を出て少ししたところにある共同墓地、そこが目的地だ。
……すぐ着いた。
墓地の端っこの方にある川島家の墓と書かれた墓石の前に立ち止まる。
「よ、お待たせ、けい。悪いな一年に一回しか帰ってこれなくて」
ここは、ずっと仲が良かった友達の墓だ。「強く生きろよ」が口癖だったこいつは四年前に結構あっさり逝ってしまった。とんだお笑い種だ。
一年間の事を簡潔に報告する。毎回思うのだが墓石に話しかけて意味あるのかな、聞いてんのかこいつ。
報告し終わった後は帰るだけ。
三年も経てばもう報告で目頭が熱くなることもない。薄れていくというか、記憶になるというか、色は時が経てば褪せるものだ。
帰るか。
聞いてるかもわからない墓石に話しかけてるのも疲れた。
帰りは田んぼ道を歩く。遠回りではあるけど、この時間この道は夕日できれいに染まる。
風が吹く。
木々や草花がこすれて遠くでだれかが何か囁いた音に聞こえる。
「なんだよ、ちゃんと聞いてんじゃんか」
家に帰ると家族はみんな帰ってきていた。
「お帰り」
階段を上がる途中の妹が僕に気が付いて声をかけてくる。
「ただいま」
妹は僕の返事を聞く前に階段を上がりきっていた。
蝉の鳴き声が聞こえる。
お昼よりは気温が下がったがまだ暑い。
台所からいい匂いが漂ってくる。
もうすぐ晩御飯か。
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