蝉の声

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ミーンミンミンミン。 「……ん」  蝉の鳴き声で目が覚める。  ごちゃごちゃした部屋に白いカーテンを通してぼんやりと光が差し込んでいる。 「……暑い」  寝巻として着たタンクトップが肌にくっついて気持ち悪い。  光の方を見るとカーテンが風に揺れてスカートのようにも見える。  窓開けて寝たっけな。  昨日は飲みすぎたからよく覚えていない。  窓を閉めてエアコンのスイッチを……リモコンがない。  そういえばこの家にはエアコンがないんだった。このご時世にエアコンがないとか、まるで修行だな。  一階に下りて居間に着いたが誰もいない。  和室の方かと思い見てみると妹が寝そべって本を読んでいた。 「ああ、お兄ちゃんおはよ」  寝転んだままの姿勢で言う。 「おう」  だらしない恰好だ。 「あれ、お前学校はどうした、さぼりか」 「もう夏休み入ってるよ」  けだるそうな返事。 「さいで」  それにしてもこの家は歴史がありそうなと言えばいいのか、古いと言ってしまえばいいのか、昔ながらという言葉がピッタリな日本家屋だ。  庭を見てみると開けっ放しの雨戸に縁側、東京じゃまず見ない。  少し間が空いてから妹が口を開く。 「お兄ちゃん、今年も行くの?」  相変わらずこちらを振り返らず寝そべっている。  僕は一瞬だけ妹を見てからまた庭を見て一言「ああ」と答えた。 「そっか、ちゃんと帰ってきてね」  「ああ、まあ行くのはお昼だけどな」  返事を期待しての言葉ではなかったが、妹から返事はなかった。  僕はそのままお風呂場に向かった。  服を脱いでる途中で鏡の自分と目が合った。  数秒見つめあっていたがどうにも居心地の悪さを感じ、服を脱ぎ捨てて扉を閉めた。  少し冷たいシャワーを浴びた後、部屋に戻って布団に転がる。お昼まではもう少し時間がある。昼寝をしてもこんな田舎じゃ誰に咎められることもないだろう。
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