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男をじっと見つめる。男は自分の前髪を掴んで懺悔を始めた。
「きっかけはそいつがあの子の悪口を言ってたのを偶然聞いたからだ。利用できるって思った。あの子の取り巻きにそれを告げ口した。それと、そいつの机にあの子のお気に入りの鉛筆を折って隠しておいたりした。悪いってわかってる、でもそれしか思いつかなかったんだ。だから、でも、俺は俺で必死だったんだよ。――だから、都合のいい考え方をしたんだ。あの日お前を見かけたとき、お前が声をかけてくれて、許されたって思った」
はっ、と嘲笑がこぼれた。
「本当に都合がいいな。自分は助かりたいけど私がいじめられるのも見たくない。お前はお前のエゴで関係ないやつを地獄に叩きこんだんだ。知らないだろ、今そいつがどうなってるか。人間不信で社会不適合者に成り下がって、希死念慮のせいで精神病院と福祉施設を行ったり来たり」
「やめてくれ、やめて……」
「止めてほしかったのはそいつと私のほうだったさ」
むせび泣きながら男がくずおれる。両手で顔を抑えて声を上げて泣いている。私は加害者を見下ろしながら、無様な泣き声が止むのを待った。頭からかぶった毛布のお陰か、アレの襲撃は来なかった。不気味なほど静かだった。男が泣き止むのを待って、ずっと疑問だったことを問う。
「そもそも、なんであの神社に行った? 危険なのは知ってただろ」
「あの子から手紙が届いてたんだ。あの子が死ぬ数日前に。『私の命日には必ず神社に行ってアレの名前を呼べ、さもなくば次はお前たちの番だ』って書かれてた。アレの名前もその時はじめて知った。神社からの帰りに知り合いとすれ違ったから、多分、俺以外にも受け取った奴は複数いると思う」
「ふうん……」
もちろん、私も受け取っている。多分、あのクラブ活動を共にしたメンバー全員に送っているのだろう。私は中身も見ずに焼き捨てた。男は自身の日和見主義で臆病な性格のせいでいらないことに首を突っ込みなおしたのだ。
「判断ミスの多いことで。霊感商法に引っかかって一文無しになればいいのに」
「今命が危ない」
「今回以外は勝手にやってろ」
また私の言いたいことはなくなる。暫くまたお互い黙っていると、男がぽつぽつと語り始める。
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