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これで五年目だ。この男がこうやって、家の前に立っているのは。自分よりも頭一つ分背の高い男。小・中学校の同級生であったが、卒業当時はそう親しいわけではなかった。玄関を開けて顔を合わせると、明るく柔和な笑みを浮かべた。安堵したような、喜んでいるような笑顔。それなのに目の奥は笑っていない。見下しているとかそういう印象ではなく、悲しいのをひた隠しにしているような、放っておけない目だ。手を合わせて、頭を下げての懇願で顔が隠れる。これもいつもと同じ、決まりきったもの。
「今年も一週間泊めて!」
お願いするときに出る調子のいい軽い声。五年もたてばわかってくる。この男は基本、誰かを頼るというのが大の苦手だ。夕陽に顔の半分を染めた男に呆れた溜息を一つ聞かせる。片目をつぶって媚びるような笑顔のまま男が顔を上げる。
「料理でも掃除でもするからさ、頼むよ。住み込み家政夫一週間」
「わかった。そのセリフも去年と同じじゃないか」
「毎度ありがとう、超助かってますぅ」
言うが早いか、宿泊道具の入った鞄を持った男はひょいと私をすり抜けて玄関に入って来た。慣れた様子で手を使わずに靴を脱ぎ、足でちょちょいと下駄箱に寄せる。行儀が悪いが作法を知らないわけではない。形が整っていれば良い派なのだ。
「居間借りるわ」
「好きにしたらいい」
玄関を施錠して、札を貼る。男を追うように居間に戻ると、男の後姿が凍り付いていた。毎年変わらなかった家の内装が、今年は大きく違っていた。テーブルやソファーがあった居間は片付けられ、部屋の隅には盛り塩。窓という窓、鏡という鏡すべてに、札が貼ってある。どれも同じものだが、ちゃんと権能のあるらしい神社からいただいたものだ。
「なんだよこれ」
「心当たりはあるだろう。そのせいで毎年、ここにきてるんだから」
「なんの、はなしだか」
「小学校の頃流行った噂だ。もちろん、知っているよな」
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