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「入ってこれないみたいだ。遠出して札をもらいに行ったかいがあったな」
「さっきの、ラップ音? なんで、まだ眠ってないのに」
「夢を見て起きるという条件はもう当てはまらない。ここにいるのは二人とも、夢では済ましてもらえない条件を踏んだ者だからだ。それ以外の人がいたらまだ大丈夫だったかもしれないが、そうか、こうなるのか」
「待て! 話が見えないって、一体どうなってるんだよ!」
知ってるくせに、と私はうろたえる男を一瞥した。ここまでは全部私の予想通りで、私はひとかけらの恐怖も感じていない。ダメだったときはもう駄目なのだ。今更だった。
「お前、夢の中でアレの名前を呼んだだろ。私もそれをやったんだ。全ての始まりは、小学校のころのクラブ活動だ」
小学校6年生。私たちの学校はクラブ活動を推奨していた。サッカーや野球だけではなく、絵画、手芸、読書などその活動内容は様々。私と男、そして件の少女、他にも複数のクラスメートは同じクラブに所属していた。『地域再発見クラブ』。自分の暮らす町の良いところについて調べ、レポートにし、グループで発表するという活動だ。この地味なクラブに所属している大半の生徒は『入っていると先生からの評価が良くなる』という噂を聞いた不純な動機を持った“いい子”たちだった。あるときそんな“いい子”の集まりは、古い神社に目を付けた。あまり有名ではない、小さな神社だ。再発見と銘打ってある通り、地域の人が注目しておらず忘れられたような場所を、いかにも名所のようにレポートするほうがいい点をもらえる。それを私たちは見抜いていた。夏の日の土曜日、私たちは神社を調査するために集まった。林の小道、緑色の陰りの中に入っていく。境内は空があまり見えないほどに木が生い茂っていて、うっすら涼しい。やや陰気だったが、炎天下の中自転車をこいできた私たちにはとても心地よかった。それに、大人が一人も見当たらないここでは私たちは別に“いい子”なんかじゃなくてよかった。人数も多くて自然と気が大きくなる。私を含めて10人の子供たちは、境内を我が物顔に探索し始めた。苔だらけの飛び石を踏みにじり、淀んだ池にかかる橋を笑いながら越えた。東屋に書かれた落書きを増やした者もいた。私は一番後ろでこの傍若無人ぶりを眺めていた。バチなど当たらないだろうと高をくくり、やりたい放題を止めようとはしなかった。
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