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思い出した。
得意先からの帰り道。
渋滞にハマっていた俺は、苛立っていた。
マユミが待っている。
コウタと別れ、晴れてフリーになった彼女に、早く触れたい。
信号が黄色に変わる。
ダラダラ動く渋滞の流れに釣られて、うっかり交差点に進入していた。
俺は、焦ってアクセルを踏んだ。
パパーーーッ!!
けたたましいクラクションのあと――交差点のほぼ中央にいた俺の車に、真横からトラックが突っ込んできた――。
「憎い浮気相手の命を代償に出来るんだったら、一石二鳥だと思わない? あ、願いが3つ叶うんだから、これって一石三鳥かもなあ?」
満足気なコウタの声が、ぐるぐる響いて……遠くなっていく。
「マユちゃんが待ってる。オレも、そろそろ行くよ。じゃあな、アツシ」
――ピッ……ピッ……ピッ……ピー……
全てのバイタルサインが0になったのを見届けて、コウタは踵を返した。
病室を出て行く足元に落ちた影の中で、紫の淡い光が一瞬蠢いて――煙のように消えていった。
【了】
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