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 父さんのPCは、キッズブロックがかかっているから、小6の僕がアクセスしても大丈夫だと安心しきっているのだろう。  宿題ではないけれど――『調べもの』は、嘘ではない。  中学校に入るまで、スマホがお預けだから、最近興味が高まっている女性の身体についての知識は、このPCが与えてくれている。  電源を入れると開くのは、窓ではなく、未知の扉だ。  ブロックを避けて開くアートサイトの裸婦像を見つめながら、僕はクラスの女子たちや、好きなアイドルにも、同じような凹凸があるのかとドキドキしていた。  ――トントントントン……。  細く開けたドアの隙間から、母さんが階段を上る足音が聞こえてきた。  急いで、バッググラウンドに用意していた『国会のしくみ』というサイトを開く。 「……サトシ、まだ宿題やってるの?」 「あ、母さん」  書斎のドアから覗く母さんを振り返る。  ボディーソープの薔薇の香りがくすぐったい。 「明日も朝練なんでしょ? 早く寝なくていいの?」 「うん……もう少しで終わるよ」 「ちゃんと電源消してね。先に寝るわよ」 「うん。おやすみなさい」  母さんは、保険会社の外交員だ。  1日中歩き回ることもあるらしく、今夜もくたびれた顔をしている。  書斎のドアをパタンと閉じて、母さんは廊下の奥の寝室に入っていった。  時計アイコンを見ると、22時を回っている。  今夜は、このくらいにしようかな……。  『国会のしくみ』サイトを閉じると、ベッドに横たわる裸の女性が現れる。  ゴヤという人が描いた『裸のマハ』という作品だ。  彼女の白い肉体をもう一度隅々まで眺めると、僕は好奇心の扉を閉じた。  シャットダウンしようとした時――見慣れないアイコンがデスクトップに残っていることに気がついた。  それは、真っ赤なハートのアイコンで、ショートカットになっている。  今夜、僕が妙な拾い物をした訳ではないみたいだ。  迷ったが――クリックしてみる。  スッ、と開いたのは、どこかのサイトのトップページだ。  真っ黒な画面に、鉄の扉の画像が浮かぶ。 【WELCOME!】  扉の前に赤い英単語が現れた。  ドキドキしながら、文字をクリックする。  【PASS WORD:□□□□】  4桁の数字を入れる空欄が現れた。  迷いながら、僕は父さんの誕生日の数字を打ってみた。
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