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【パスワードに誤りがあります】
……そう単純ではないらしい。
4桁の数字なら、10の4乗で1万通り。
今、1つ間違ったから、あと9999通り試せば、いつか扉は開くだろう。
僕は、赤いハートのサイトを閉じた。
アクセス履歴を削除して、PCをシャットダウンすると、書斎を後にした。
-*-*-*-
「結局また『きびだんご』なの?」
父さんが、出張先から買ってきたお土産を食卓に広げる。
それを見た母さんは、呆れた声を上げた。
「いや、ちゃんと見てみろ。今回のは『マスカットきびだんご』って言ってな……」
「ご飯のおかずになるの、これ?」
黍粉で作られた皮の中に、新緑色のマスカットがうっすら見える。
母さんが皮肉を言っているのは明らかだ。
「あー、飯のおかずはこっちだ」
父さんは、ボストンバックの中からパウチパックを4つ取り出した。
パウチの袋には【ホルモンうどんの素】と書かれている。
「……ホルモンうどん?」
「ああ、うまいんだぞー。次の日曜日、父さんが作ってやるからな」
そういうと、父さんは自らお土産のマスカットきびだんごを摘まんで食べた。
その後ろで、母さんがヤレヤレというように首を振っている。
僕も、奇妙な銘菓をパクりと頬張る。
爽やかな初夏の味が、口中一杯に広がった。
-*-*-*-
翌週末、父さんはまた出張することになった。
「またなの? 今度は、どこ?」
【ホルモンうどん】をお好み焼き機の鉄板で炒めながら、父さんは上機嫌だ。
「北海道だ。美味いもん、一杯買ってくるぞー」
ジャッ……ジューッ!
食欲をそそる音が、父さんの手元のコテから溢れている。
「今度は、『おかず』を期待できそうね?」
取り皿を並べながら、母さんは、僕に目配せした。
土曜日の夜。
【ホルモンうどん】は『ご飯のおかず』ではなく、『ご飯』そのものになり、リビング一杯に濃厚な匂いを放っていた。
僕は、昼間の試合でヒットとエラーを1つずつやらかしたが、チームは勝ったので、複雑な気持ちでいた。
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