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after ~truth~
「……で、これがイカの塩辛だろ、それからジンギスカンに……ラーメンセットだ!」
月曜日の夜、北海道出張から帰った父さんは、いつものように食卓にお土産を広げた。現地で買ったことがありありと分かる「ラベンダーとキツネ」のイラストが付いた、厚手の紙袋の中から次々と取り出している。
「味噌、醤油、塩の3種類あるんだ。味によって、麺の太さや縮れ具合も違ってな……」
得意気に語る横顔が、どこか遠い。笑顔を見せようと思うが、口も頬も不自然にしか動かず、笑い方が分からない。
「どうした? 元気ないな?」
ホワイトチョコを挟んだクッキー、北海道土産の定番【白い恋人】の包み紙を手にしたまま、父さんは怪訝な眼差しを僕に向けた。
「あ……うん、何か頭痛くて。風邪かも……ご飯いらないから、寝ていい?」
背中にヘンな汗が滲む。こんなに「フツー」の、にこにこ穏やかな父さんなのに――50人以上の人を、殺しているのだろうか。
「大丈夫か」
「早く言いなさい。ちゃんと薬飲んだ? あとでお粥持っていくわね」
父さんより先に、母さんが僕の側に来た。ホッとしている自分に気付く。
「うん……ごめん」
何に対しての謝罪なのか判然としないまま、俯いてリビングを出た。
「サトシ、大丈夫なのか」
「あの子、この連休中、夜更かししてたのよね」
ドアの向こうで交わされる両親の会話に、スーッと寒くなる。
「夜更かし?」
「遅くまであなたのPC使ってたの。迂闊だったわ」
立ち聞きに気付かれないよう必死で足音を消しながら、階段を急ぐ。――バレた。多分。閲覧履歴を消したけど、きっと父さんは、僕があのサイトを覗いたことを突き止めるはずだ。
自分の部屋に入ると、ベッドに潜り込んだ。身体が小さく震えている。
秘密を知った僕を……父さんは、どうするんだろう。
考えながら、考えないように目を瞑る。それでも、グルグルと父さんの笑顔が瞼の裏から離れない。
そうして――いつの間にか、僕は眠ってしまった。
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