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チャイムが鳴って、教室を出ようとした時、担任の酒本先生が入って来た。
「山口、ちょっと来い」
酒本先生は、普段とは違う強張った顔付きだ。
足早に廊下を進む先生を、ほとんど小走りで追いかける。何も質問出来ないような気配を背中から感じる。何か、やらかしただろうか? 叱られそうな予感、満載だ。
「入れ」
通されたのは、何故か校長室だ。緊張しながら室内に入ると――。
「山口サトシ君だね? お父さんのことで話を聞かせて貰えるかな」
白い応接ソファーから、2人揃って立ち上がったのは、制服を着た警察官だった。
ー*ー*ー*ー
「……サトシ、大丈夫?」
ハッとして目を開くと、母さんが僕を覗き込んでいた。あぁ……夢か――。
「うなされてたわよ。病院行く?」
母さんは、冷えたタオルで額を拭いてくれた。全身がベッタリ汗ばんでいる。
「だ、大丈夫」
「ほら、計んなさい」
ベッドの上に起き上がらせて、体温計を寄越す。母さんは、新しいパジャマをクローゼットから出し始めた。ぼんやり眺めていると、美味そうな匂いがした。学習机の上に、フキンをかけたトレイが見える。
「……お腹空いた」
「あら、良かった。何度?」
「36.2」
「熱は無いわね。ほら、着替えてから食べなさい」
服を脱ぐ傍ら、母さんは手際よくシーツを替えている。
「……父さんは?」
「もう寝たわよ。どうして?」
「……別に」
「食べたら、置いておいていいわ。温かくして寝るのよ」
「うん」
髪をクシャッと撫でてから、母さんは冷や汗の染みたシーツと服を抱えて出て行った。
少し温いお粥は、玉子と味噌の優しい味がした。
ー*ー*ー*ー
翌日。母さんに学校を休むかどうか聞かれたが、僕は「行く」と言った。
家にいると、余計なことを考えてしまいそうだったからだ。
日頃は、大して好きではない授業でも、気をまぎらわせるには役立ってくれた。
「――あ、そうだ。山口」
帰りのHRが終わると、酒本先生が思い出したように僕の名を呼んだ。
「はい?」
ランドセルに教科書なんかを詰めていた僕は、何気なく顔を上げて――夕べの悪夢が頭を過った。
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