運び屋ジャズ&スパイシー

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スパイス調味料のブレンドによる超絶化学反応の研究発表が出ておよそ100年。 世界はスパイスを利用したブレンド文明による宇宙世紀へと突入していた。  ジャズバー「ファンドゥー」。  地下に設けられたそこには煌びやかに発展していった宇宙世紀の掃きだめ、いわゆるならず者たちが集まっていた。  そんなならず者が集う場所に、ふさわしくない容姿の少女が一人。輝く黄金色のロングヘア、白いレースのドレスに麦わらの帽子をかぶっている。  彼女は浮かない顔をしながら、バーのカウンターに腰かけている。  バーにはピアノの音が響いている。ちょうどピアノを弾いている男のお気に入りのナンバー「Take the A Train」が静かに、そして賑やかに、熱く、バーの中を駆け巡っている所であった。 「……はぁ」 「おやおや、ため息になんてついちゃってご機嫌じゃないねぇ」  白く可憐な少女を、ならず者たちは遠巻きで眺めているかと思えば、一人の男が少女に声をかけていた。男は少女の美しいブロンドヘアとは違うくすんだ黄色の髪、右まぶたには焼け爛れたような大きな傷を持っている。赤いボディスーツに身を包んだ不思議な雰囲気の男だった。 「ここはお嬢さんみたいな子が来るお店じゃあないぜ?」 珍妙な雰囲気の男だった。見た目に反して口調は軽快。少女は近付いてきた男の軽薄な態度にもちろん警戒。しかし、それがお目当ての人物だと理解したので、必然口を閉開した。 「貴方が運び屋クミンですね」  赤いボディスーツの男、クミンは大げさに肩をすくめた。 「あら、俺の名前を知っているってことはなに? おたくってもしかして今回の依頼人?」 「はい、そうです」 「あんたみたいなお嬢ちゃんが?」 「私の名前はローレル。ローレル・アートブレイキーといいます。あんたとかお嬢ちゃんなんて呼ぶのはやめてください」 「へぇ、おたくがアートブレイキー一族の生き残りって訳だ」 「……」 「アートブレイキー一族といえば、スパイス配合の黄金比を発表した宇宙世紀の立て役者だ。あんたらの頭には金では価値をつけられないくらいの叡智が詰まっているって話だな」 「レシピのことですね」  ローレルは重々しい口調で語った。
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