運び屋ジャズ&スパイシー

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「そうさ! 貴様を倒して黄金レシピさえ手に入れれば、それで充分なのだー!」  パイルバンカーに搭載されたスパイスがブレンドされたことによって爆発的な熱量を生み出す。射出されたパイルバンカーの杭がクミンめがけて襲い掛かる。 「まったく、おたくもこりないねぇ」  クミンは銃を向けた。 「このブレンドは少し刺激的だがゆっくり味わえよ?」  銃弾が放たれる。クミンの銃弾にもスパイスが調合されている。その調合比率はクミンだけしか知らない特別な調合だ。一歩間違えれば暴発しかねない刺激的な調合によって、彼はすさまじい威力のブレンドリーファイアーを操っていた。  銃弾が襲い掛かるパイルバンカーを完膚なきまでに粉砕した。 「ぐ、ぐおおおっ!? お、俺のパイルバンカーがぁぁ!?」 「悪いが黄金レシピを譲るつもりはないぜ。一昨日出直してきな、カイエンペッパー」 「くそ、くそっ! これで勝ったと思うなよ、ジャズ&スパイシー! 俺を退けた所で他の連中が必ずアートブレイキーの娘をさらいにやってくるぞ!」  捨て台詞を吐きながらカイエンペッパーは、倒れるレトルトたちに声をかけた。 「撤退だ、レトルトたち!」  レトルトたちは手や足を引きずりながら、慌てた様子でカイエンペッパーの背中を追った。  クミンはその後ろ姿に銃弾を浴びせるような真似はせず、静かに彼らが去るのを見送った。 「やれやれ、カイエンペッパーの奴が出てきたってことは、あのお嬢ちゃんはいよいよ本物らしい」  ローレル。アートブレイキーの娘。黄金レシピの保有者。彼女と一緒にいればおそらく今までにないほどの刺激的な仕事が待っていることだろう。 「コリアンダーは嫌がるだろうな」  相棒のしかめ面を想像しながら、クミンは二人が待つ操縦エリアへと戻ろうとしていた。  コリアンダーに貨物エリアの損害状況を報告したら、きっとまた彼は怒り出すだろう。まあ、それも仕方がない。宇宙船パイサー・ワスール号は彼の半身とも呼べる愛機なのだから。それよりも何よりもまずは腹が減った。腹ごしらえをしなければ、仕事も何もあったものではない。  クミンは今日の夕食はカレーにしようと、自然にそう思った。
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