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前を歩く女
その女性のあとをつけてみようと思ったのは、ほんの気まぐれだった。
クライアントからのクレームの処理に追われ、気持ちが沈んでいた私は、同期からの飲み会の誘いを断り、仕事が終わるとそのまま帰路についた。
電車から降り、すっかり日が落ちて暗くなった道を進み始めたところで、ふと、少し前を歩く女性に目が留まった。
電車内で見かけた女性だ。
降りる際にちらりと見た横顔がとても綺麗だったから、印象に残っている。
肩まで伸びた黒髪が、さらさらと揺れていた。
どうやら帰る方向が同じらしい。彼女が歩いているのは、私のいつもの帰宅ルートだった。
彼女の歩みの速度は遅くもなければ速くもなく、無理をして追い抜こうという気にはならないほどだった。
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