クリックひとつで

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 確かに素人でも、クリックひとつとはいかないが、トリミングにフィルター、エフェクト、様々なアプリを駆使して、画像の加工はそれなりに出来てしまう。プロの手に掛かれば、より完璧な仕事が可能なのだろう。 「写真スタジオを経営している男から頼まれて、ある小学校で、校庭に集まった全校生徒の集合写真を屋上から撮影した写真の修正を頼まれたこともあったなぁ。笑顔いっぱいの小学生が集まった校庭の地面に、カメラを睨んだ巨大なガキの顔が、どーんと映り込んじゃっていてさぁ。イジメを苦にして自殺しちゃった子の顔だって、あとから教師が言ってきたってさ。そんな写真だって、半日ほど掛けりゃあフツ―の集合写真に早変わりだよ。レイヤー重ねたり、色調補正したりしてね。卒業文集に載せる写真だったみたいだけど……、笑えますよねえ? 生徒たちはなぁんも知らないまま、その写真を思い出の写真としてずっと大切にし続けるんだから。いくら写真から見えちゃヤバい物を消したって、自殺した子の恨みは生涯消えることはないのにねぇ」  じっとりとした重苦しい空気が、寺岡の話を聞いていた全員を覆い尽くしていく。 「要するに、怪異なんてもんはいつでも身近にあるってことですよ。ねぇ」  何故だか寺岡は、私だけに向かって締めのセリフを吐いた。  やめてよ。  なんでそんな目をして、こっちを見るの?  私の右肩を、どうしてじっと見ているの?  確かめてしまったら、きっと今夜の酒は不味くなる。  何事もなかったように、私はその夜の記憶を上書きした。 【了】
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