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それは大法要の時のような激しい印象ではなく、静かに胸に響いてくるような、優しさを感じるお経でした。
その夜、あの女が皐月を殺しに来た時にも念仏が聴こえていました。
その声が昼間の住職さんと同じ温かさを感じさせるものであることに気がついて、私は胸が熱くなりました。
女の霊は少し戸惑うように人影の群れを見やり、そして苛立ちをあらわに荒々しく皐月の首を捩りました。
老人の霊と入れ替わり立ち替わり現れるその女の霊は、やがて皐月を殺すのをどこか淡々と行うようになっていきました。
逃げもせず抵抗もしないでただ耐える皐月をいたぶるのに飽きてきたように見えました。
猛烈に皐月をいたぶる老人と違い、現れては大して興味もないように皐月の首を捩り折って消えるのです。
ある時、しばらく皐月のことを見下ろしていたかと思うと、手をつきひれ伏す皐月の頭を掴んであげさせ、皐月と目を合わせました。
そして皐月の頭をひと撫でしたかと思うとそのまま皐月の首を捩りました。
それきり、女の霊は現れなくなりました。
あと1人。
最後まで皐月をいたぶるのをやめようとしない老人の霊は、自分1人になったことを認めないとでも言うように、これまで以上に皐月をいたぶりました。
それでも皐月は耐えて謝り続けていました。
私も同じように謝り続けました。
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