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皐月と住人達の間に立ったシズ婆さんの霊が、住人達に向かって静かにゆっくりと頭を下げました。
手を前に組んで腰を90度近くまで折る深々としたお辞儀でした。
住人達はたじろいだように身悶えました。
「お婆ちゃん……!」
皐月は口に手を当てて嗚咽を漏らしました
私の目からも涙が溢れてきました。
シズ婆さんは死んでも皐月を守ってくれている。
その愛に感謝の念が溢れました。
シズ婆さんは頭を下げたまま動きません。
住人達の霊は1人また1人と揺らめき消えていきました。
やがて全員が消えると、シズ婆さんの霊は頭をあげ皐月を振り返りニッコリと笑いながらウンウンと頷いて消えました。
「お婆ちゃん!お婆ちゃん!行かないで……!……お婆ちゃん……」
皐月が泣きじゃくる中で、ただ1人残された老人の霊が項垂れていました。
過去の被害者である怨霊達も、その怨霊に殺された現代の住人達も、皆皐月を許しました。
老人1人が何をしても、もはや集合体としての怨念は維持できないと悟ったようでした。
老人は項垂れたまま鎌を握りしめ震えていました。
皐月を殺すだろうかと思い、私は老人をじっと見ていました。
やがて老人は力なく鎌を取り落としました。
そして皐月に対して、先ほどのシズ婆さんと同じように深々と頭を下げました。
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