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その時、病室に甘い香りが漂っているのに気がつきました。
私は目を閉じて神様に感謝を捧げ、皐月が眼を覚ますのを待ちました。
結局皐月が眼を覚ましたのは午後になってからのことでした。
朝に見舞いに来た早紀江さんに昨夜のことを伝えると早紀江さんも泣いて喜びました。
神主さんに連絡をして皆が病室で皐月を見守っていました。
昨夜のことをつぶさに説明すると神主さんも静かに涙を流していました。
「母さん……」
何よりもシズ婆さんが皐月を守ってくれていたことが嬉しかったようでした。
そして冬の日差しが傾き始める昼下がり、皐月が眼を覚ましました。
「お母さん……」
眠っている皐月が呟きました。
皆で皐月のそばに駆け寄り皐月の顔を覗き込みました。
閉じられている皐月の瞼がかすかに震え、そしてゆっくりと開かれました。
「皐月!」
早紀江さんが皐月に覆い被さるようにして名前を呼びました。
「お母さん……終わった……」
皐月はかすれた声でそう言いました。
「皐月……ああ……皐月……お帰り……皐月……」
早紀江さんは涙でしゃくりあげながら皐月のおでこや頬を撫でていました。
「皐月」
神主さんが皐月の傍に腰をかがめて顔を覗き込んで言いました。
「ありがとう。皐月。よく頑張ってくれたね」
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