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夜遅くまで警察と役場の人と相談して、盆踊りを中止しないと決めた神主さんは、翌朝には目の下にクマを作っていました。
おそらく一睡もしなかったのだろうとわかりました。
朝から大人達が櫓を組み上げ、提灯を貼ります。
スピーカーやらゴミ箱やらを設置し終えると、私達のやることはなくなりました。
時刻は昼過ぎ、昨日までの準備が万端だったおかげか、盆踊り前日はとてもゆったりとした時間が流れていました。
といっても巫女舞を舞う皐月は鬼気迫る様子でシズ婆さんの前で神楽を練習しています。
私と兄は皐月の練習を初めて間近で見守りました。
私達が見ていることで少し恥ずかしそうにしていましたが、「明日は神様の前で踊るんだ。人間相手に竦んでる場合じゃないさね」とシズ婆さんに窘められていました。
山道の方を見ると警察の人達が山道の周囲を見聞しながら山に入っていきました。
明日は盆踊り本番。
亡くなった猟友会の人達。
相次ぐ山犬の目撃情報。
昨日は猿まで町に出たといいます。
山がおかしい。
そんな大きすぎて想像がつかない事態に対する不安は、想像がつかない故に差し迫る脅威と感じるわけでもなく、日常となんら変わらない時間の中で、まるでお腹を下した時のような不快感として体にまとわりついていました。
盆踊り当日。
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