紫陽花奇譚

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 大蛇は鎌首をもたげると、ゆっくりと大きく口を開く。血で染まったようなそれはすでに、ヒナタをすっぽりと覆う大きさに開かれていた。ヒナタの頭上に影が落ちる。後ろでは、きらりと見える一筋の光がひるがえる。 (その度胸、気に入った。せめて苦しまぬように、ひと飲みにしてやろう!)  叫びながらユカリは顔を覆った。  ――ぴちゃっ、と額の端に生温かいものがつく。それはつと、こめかみを伝い、耳の横を過ぎていく。恐る恐る下を見ると、落ちていったものは赤かった。  荒く、乱れる呼吸。  ぴゅう、と噴き出す音。  ユカリは覆っていた手をそっと離した。  大きく口を開いた大蛇は、赤い目をぎくりと開き、地面すれすれのところで動きを止めていた。牙の隙間から、ヒナタの履いているスニーカーが見える。ユカリの口元が引きつった。そのスニーカーが見える牙のそばに、さっきからしぶきが落ちてきている。見上げたしぶきの出所に、ユカリはあっと息をのんだ。  大きく開いた口の真後ろを、深々と刀が突き刺していた。あの刀は確か、お祭りで使う魔除けの刀だ。突き立てられた刀の脇から、血が噴水のように噴き出している。その刀の先には、見開き青ざめた顔をしながら、肩で息をするミカゲがいた。
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