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見える牙の隙間が動いた。狭い隙間をぬって、ヒナタが這い出してきていた。
「や……やった。ヒナタ、やったよ!」
「よし!ミカゲ!こっちだ!」
兄に振り返り、青ざめた表情に笑みをつくる。そおっと刀を引き抜くと、途端に勢いよく吹きだした血が、ミカゲの顔を真っ赤に染め上げた。
「なんだよぉ、これ」
さっきの勇ましい姿など微塵も感じさせない情けない声で、ミカゲはぼやく。袖で顔を拭いながら、朗らかに笑うヒナタの元に、ミカゲが飛び降りようとしたときだった。
(おのれぇぇぇ!)
叫び声を上げると、空を行くミカゲに、その尾を叩きつけた。
「ミカゲ!」
叩きつけられた体が宙を舞う。伸ばした兄の手が弟をつかみ取ると、もろとも、石段を転げ始めた。
「いやぁぁぁっ!ヒナタぁ!ミカゲぇ!」
お互い向かい合うようにして、代わる代わる石段に打ちつけられながら、落ちていく。ユカリも石段を滑り落ちるように後を追った。
跳ね上がり、また勢いよく落ちていく二人がなかなかつかめない。ふと石段を見ると、赤い筋が引かれていることに、ユカリは金切り声を上げた。
石段の上から注がれる呪詛の音が、心を凍りつかせる。
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