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甲に小さく青いあざの残る左手が、震えている。懸命にその手を伸ばし、紫の頬に触れる。息の荒くなった陽人が優しく微笑んだ。
「そなたが……無事で……よかった……。」
「お話にならないでください!ああ……、血が、血が……!」
呼吸に合わせてふつ、ふつ、とあふれだす。紫が胸の鮮やかな裂け目に手を押し当てるも、指の間から血がほとばしる。
震える指先が冷たい。陽人の顔はもう、色を無くしかけていた。
「……それほどまでに、このおなごがよろしゅうございますか」
すでに焦点も合わず、絶えそうな息の中、陽人は瞬きで答える。その姿に目を見張ると、露はゆっくりとまぶたを閉じる。ぽたり、とひとしずく、涙が手に落ちた。
「露様!何を!」
落ちた涙が傷口に染み渡り、はじけるような音を立てながら白い煙を起こす。うめく陽人を、露はじっと見つめている。そのまま侮蔑の目を向けられると、紫は尾で払いのけられた。
「つ……ゆ!」
「けがなどさせておりませぬ。ご案じなさいますな。」
そう言うと、長く、艶やかな体に抱きかかえるように、露は陽人を絡め取った。
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