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紙包みを拾って戻ってきてくれたヒナタは、へたり込んでいるユカリをゆっくり立たせ、照れくさそうにしながらも、そっと自分の右手を握らせる。ユカリの右手を手すりに添わせると、一歩ずつ、階段を降りた。
最後の一段に足を下ろす。が、下ろしたかかとがつるりと滑り、ユカリの右手が離れた。尻もちを着く瞬間、腕がぐっと体を支えた。
「ごめん……」
「いや。よく頑張ったな」
抱えられた腕に心なしか力がこもっている。ユカリはあわてて立ち上がり、パンパンとあちこちを払う。ふぅと息を吐いても、胸のうずきは治まりそうになかった。
毎年必ず、この階段の上で待ち合わせをしていた。めまいを起こすのにも関わらず。そうしなければならない、と思ったのだ。
階段を降りきったところには、紫陽花の大きな生け垣があった。高校の時、校内で一番背が高かったヒナタが手を伸ばしても届かないくらい、高く天に伸びている。ブウゥン、とそばを車が走っていくが見えず、境内を完全に覆い隠している。この生け垣が途切れているところに最初の鳥居があった。
紫陽花は今が盛りと言わんばかりに、赤とも青ともつかないあわいの花びらをそこかしこにむけて広げている。だが、石段に近い一角には、全く花がなかった。
「ここだけは、咲かないな」
「花の手入れが間違ってるのかしら」
「昔からだぜ。いいかげん直せよ」
ヒナタがそう言うと、そうだよね、とうなずきながらクスクスと笑い合う。
ヒナタから紙包みを渡される。「捜しています」という見出しが見え隠れする新聞紙を開くと、そこには同じように、移ろいやすい色をした紫陽花が顔を見せた。色を補うかのように、そっと根方に置く。
ミカゲはここで、消えたのだ。
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