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それからも貪るように、忘れるように、男達を溺れさせているある日、見つけたのだ。
しばらくの眠りから覚めた日のことだった。
社殿の屋根裏で目を覚ますと、快活な二つの笑い声が聞こえてくる。板の隙間から外をのぞくと、目を見張った。
少年の左手に小さな青いあざがあったのだ。
白いシャツに黒のズボンをはいた少年達は、石段に座り何かをほおばっている。棒の先にある水色に固められたそれは見るからに涼しげで、清らかさが二人に似合っていた。シャリッ、とかじっては笑い、笑ってはまたかじる。二人の風貌から兄弟であることはすぐに分かった。
茶色の髪を日にすかし、朗らかに笑う兄と、そっと寄り添い、静かに頷く弟。妙に胸が沸き立ち、じっとしていられなかった。とくん、とくん、と打つ胸を押さえ、慌てて屋根裏から駆け下りると、二人のそばに行った。
「ねぇ、一口ちょうだい」
はだしで、いきなりやってきた娘に面食らっただろう。ぽかんと口を開けたまま、二人はしばし動きを止めた。
「いいよ」
差し出された氷菓子を持つ左手には、あの青いあざ。思わず目の端がにじみ上がった。
「ちょ……、ヒナタ、何かした?」
気づいた奥の少年が、小声でヒナタに言う。どうやらヒナタも気づいたらしく「ミカゲ、オレは何もしてないって」と言い訳している。
「あ……、ゴミが入ったみたい」
そっと目じりを拭くと、二人の表情が変わる。まだ女の子の扱いに慣れていない、少年の表情だ。ホッとしているのがよく分かり、久々に心がくすぐられた。
渡された氷菓子を一口、かじる。喉を通り過ぎる空の色を模したかけらは、身に染みついた汚れをそいでくれるように思えた。
「おいしい?」
ミカゲに聞かれ、素直に頷く。氷菓子を受け取りながらヒナタが言った。
「見かけない顔だなぁ」
「こ、今度転校してきたの」
とっさにそう、答えた。
そのまま町に入り込み、時を過ごした。当然、露は二人を次の紫陽花だと考えていた。が、紫はのらりくらりと交わしていた。
賽を投げたのは、弟だ。
去年のことだった。
紫陽花を添えるためにこの神社に来た。また石段を踏み外し、ヒナタの腕が支えてくれたとき、こう言ったのだ。
「ユカリ、ボクの手を持って」
さっと鳥肌が立った。
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