紫陽花奇譚

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 ミカゲの事は、不運な事故だと思っていた。業を煮やした露が、強引に行ってしまったのだろう、と。だから、詫びのつもりで根方に紫陽花を供えていたのだ。  だが、事故後、ヒナタの様子が変わった。  一見全く同じに見える。しかし、どことなくぎこちないのだ。そう感じると、何もかもが目につく。  歩き方。  手の上げ方。  笑い方。  目に留めるもの。  横顔。  氷菓子をかじるところ。  なにより、遅刻をするようになった。  そんなヒナタが今、「ボク」と言った。  ヒナタは「ボク」とは言わない。――言うのは、ミカゲだ。  露にそれとなく聞くと、あっさりと白状した。だが、聞かれるまでは言うつもりもなかったようだ。  胸が焼かれた。  あれから一年。――この日を、待っていた。  背を支えている狛狐の土台から体を起こすと、左足を引きずり、紫は露が消えたあたりまで歩く。川面に溶け残った蜜柑色の夕日は、土の中にある細かな粒を照らし出す。はじけ、虚空に消え去った、ミカゲと露の粟粒に似ていた。  じっと見下ろす。 「……いい気味」     
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