11人が本棚に入れています
本棚に追加
ミカゲの事は、不運な事故だと思っていた。業を煮やした露が、強引に行ってしまったのだろう、と。だから、詫びのつもりで根方に紫陽花を供えていたのだ。
だが、事故後、ヒナタの様子が変わった。
一見全く同じに見える。しかし、どことなくぎこちないのだ。そう感じると、何もかもが目につく。
歩き方。
手の上げ方。
笑い方。
目に留めるもの。
横顔。
氷菓子をかじるところ。
なにより、遅刻をするようになった。
そんなヒナタが今、「ボク」と言った。
ヒナタは「ボク」とは言わない。――言うのは、ミカゲだ。
露にそれとなく聞くと、あっさりと白状した。だが、聞かれるまでは言うつもりもなかったようだ。
胸が焼かれた。
あれから一年。――この日を、待っていた。
背を支えている狛狐の土台から体を起こすと、左足を引きずり、紫は露が消えたあたりまで歩く。川面に溶け残った蜜柑色の夕日は、土の中にある細かな粒を照らし出す。はじけ、虚空に消え去った、ミカゲと露の粟粒に似ていた。
じっと見下ろす。
「……いい気味」
最初のコメントを投稿しよう!