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物音が聞こえなくなった。辺りを闇が包む。
そうか。また、しばらく眠りにつくのだ。
暗い空に、ぽつり、ぽつりと光が表れた。
薄衣のような光は二つの塊にまとまり、じょじょに形を成した。人のような形をしたそれから、そおっと光が差し出される。どちらにもある、小さな青いあざ。
血と涙で汚れきった顔に懸命に笑みをつくり、紫は折れて動かない右の指を、それでも上げようとした。
「一口……ちょうだい」
残った夕日が射す生け垣の葉裏辺りが、薄紫色に光る。霞のような光は渦を巻くと、まるで初めからそこにあったかのように、淡く咲き始める。
その時、狛狐の体にぴしり、と亀裂が入った。
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