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「あぢぃぃぃぃ!」
勢いよくかみ砕かれる氷菓子の音に、ユカリはクスリと笑った。
六月だというのに、今日の最高気温は三十度を超えていたらしい。木々のない社殿の周りは、おそらく三十五度は超えていただろう。ヒナタが手にした氷菓子からぽたりと垂れるしずくが、それを物語っていた。
なんでここで待たせるんだよ、と悪態をつきながらまた一口ほおばる。そのまま、小さな青あざのある左手の甲をのぞき込んだヒナタが「ほら!また三十分!」とむくれていた。
日はそろそろ傾こうとしている。空に広がる蜜柑色の帯。濃く、くっきりと描かれ始める影。わずかに感じた心細さは、またガジリ、と勢いよくかみ砕く音がかき消してくれた。大きな背を窮屈そうに折りたたみ、石段にドカリと座り込んでいる。透けるような茶色い髪がツンツンと立ち、いがぐりのようである。だが、夕日を受けた横顔は、いがぐりというよりも、昔見た、明け始めの朝日のように、すがすがしかった。
「遅いね、ミカゲ。何してるんだろ」
ミカゲの遅刻はいつものことだけど、と、ぼやきながら、ユカリは制服のスカートの裾をつまみ、うちわでパタパタとあおぐ。
「お前、それ止めろって……」
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