紫陽花奇譚

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 するとヒナタは、体をこちらに向け、まっすぐ見てきた。喉をひと鳴らしすると、かすかにうわずった声で言い出した。 「ユカリ、あのさ……」  ――その時だった。  ぞわり、と何かが背を走る。  ズズ……、ズズ……、と引きずり地を這うような音が、手を伝い、響いた。 「ヒナタ……?」  うなずくヒナタはすでに、ユカリの肩を抱いている。  音はだんだん大きくなる。抱かれる肩に力がこもり、目は留まるところを忘れる。  石段の下。  向かい合うお互いの後ろ。  そこには何もいない。――残るは背後の社殿のみ。  見合った互いの顔半分に影が落ちる。恐る恐る見上げると、映る姿に息をのんだ。 「ミカゲ!?」  ぐったりしたミカゲの青ざめた顔。  そのミカゲにからまる白いもの。  沈みかけた夕日がてらてらとはね返す光は、艶やかな姿態を意識させた。ミカゲをからめ取って離そうとしない白い体は長く、手足らしきものは見あたらない。こちらへわずかにいざると、きゅっと体が擦れ合う音がし、そのたびにミカゲがブルッと揺れる。ミカゲが絡め取られているあたりより上は、白い体がすうっと伸び上がっていた。  目が合う。  赤い目をした白い大蛇が、鎌首をもたげてこちらを見下ろしていた。 「へ……へ……!?」
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