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ヒナタの歯の根がカチカチと聞こえる。それでも、しっかり抱きかかえた腕を放そうとはしない。お互いを支えにして立ち上がろうとするが、膝に力が伝わらず何度も崩れる。その間にも大蛇はこちらへ近づいている。
石段際まで来ると、赤い目はこちらを見下ろす。心を揺さぶるような声が、頭に響きわたった。
(……お前が、ヒナタか)
「お……お前こそ何だ。ミ……ミカゲを離せ!」
裏返りながらも、やっと声を発したヒナタを一瞥すると、蛇はこちらに目をやる。と、口の端を少し引き上げたかに見えた。ククク……という含み笑いが、白い大蛇の口からもれる。
その時、ぐったりしていたミカゲの体がびくりと揺れると、ゴホッと咳き込んだ。
「……ヒ……ナタ?、ユカ……リ?」
「ミカゲ!大丈夫か!?」
苦しそうな息づかいをしながら、ミカゲはゆっくりと目を開けた。
「……コイツ、ボクらを食べるつもりだ」
引きつる顔の前で、再び締め上げられたミカゲがうめく。
白い体の隙間から、だらりと垂れるミカゲの手。その指先は小刻みに震えながら、石段を指していた。
「で……できるか!?お前を、弟を放っていけるわけないだろう!」
ユカリ!逃げろ!と突き離され、狛狐の土台にどんと体を打ちつけられた。ヒナタはそばに転がっている石を拾い投げつける。灰色のつぶては、夕日をはね返す白い鱗に当たるとパラパラと落ちていく。それを見て大蛇は嘲るように笑い声を響かせた。
(そのようなものを、何度投げつけても無駄なこと)
「そうかな。これでも野球部のエースだったんだぜ!」
シュッ!と投げた次の一投が、大蛇の右目に命中する。辺りを掘り返すような声でうめき、血を流しながら閉じていく右目をヒナタに向けると、かぁっ!と裂けた口を開いた。
(おのれ!よくも!)
その拍子にミカゲを縛る力が緩むと、地にどうと崩れ落ちる。うつろな目をするミカゲの手を、ユカリはすばやくつかみ取りそばに引き寄せた。
「バ……カ!なんで……逃げないんだ……よ!?」
「逃げるぞ!」
石段を降り始めるヒナタ。後に続くミカゲ。二人を追って立とうとした瞬間、ふわりと体が宙に浮いた。胴に触れるひやりとしたもの。それはじょじょに体を締め付ける。引き寄せられた自分の顔のすぐ上には、冷たい赤い目が一瞥している。出せる限りの声がユカリからはじけだした。
「ユカリ!」
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