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(こっちへ来い、ヒナタ。……この娘がどうなってもいいのか?)
ミカゲが、震えているのが見える。そのそばに寄り、耳打ちをしているヒナタ。驚いたミカゲがヒナタに何か言っているようにも見えるが、キーンと耳の根に響き始める音が全てをかき消していく。ぐい、と一締めされると、何かが喉元に駆け上がり、吐いた。
「さあ!ユカリを離せ!」
ヒナタの声を頼りに、気をつなぎ止める。おぼろげに見えるのは、両手を広げ、大蛇をにらみ上げるヒナタ。すると大蛇は、真っ赤に裂けた口に嘲笑を浮かべた。
(……お前は、愚かだな)
「オレが喰いたいんだろ!?さあ!ユカリを離せ!」
(つくづく、愚かだ。……よかろう。望みどおりにしてやる)
途端、骨がきしむほど締め付けていた大蛇の体が緩み始めた。ズズ……、ズズ……ともつれたひもをほどくように身が動くと、ふっと支えがなくなる。か細い悲鳴と共に、腰の辺りを地面にしたたか打ちつけられた。締まっていた何もかもが緩み、胃のそこからあらゆるものが込み上げ、ただただ何度も咳き込んだ。その後ろを、すうっと赤い目が伸び上がる。
「ヒナタ!」
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