2人が本棚に入れています
本棚に追加
「うっ、えぐっ!うっ、うっ、」
声がする、声の主はうずくまり泣いている。泣いている子は小汚い格好の小さい男の子だ。
なぜ泣いているのだろう、理由を聞こうにも声が出ない。いつものことである、何回も見てきたシーン。おそらく男の子の手元にある壊れたおもちゃが原因だろう。そして、徐々に泣いている子と同い年ぐらいの子が周りを囲み始める。
「そんな汚いものが大事なの?」
「もう壊れてるんだから捨てろよ!」
「キモいんだよ!」「あっち行けよ!」
飛び交う罵声、誹謗中傷、少年たちの鋭いナイフが男の子の心をズタズタに切り裂く。
「死んじゃえよ」
「はっはっはー!」笑い声が響き渡るが少年たちは違和感に徐々に気づく。泣き声が止んでいる。少年たちは怪訝な顔になる。
ズダッ!さっきまで泣いていた男の子は急に立ち上がる、顔つきには感情が無い。
ガンッガンッ!涙の理由だったおもちゃを踏みつける。靴を履いてないのでおもちゃに血が混じる。
ガンッガン!形はなくなり残骸へと変わり、音にはグチャッ!っと肉の音が混じる。
男の子の異常な行動に、少年たちの顔は強張り皆声も出ない。
ガンッガン!ガンっ!
一際大きな音が響き渡り、辺りを静寂が包み、呼吸をすることさえ許されない緊張感が漂う。
「う、うわぁー!」
1人が走り出した、後に続けと皆走り出す。
男の子は独り残される。
「うわぁ!」
「ハッ!ハッ!ハッ!」
胸の鼓動が高鳴り、耳元でドクドクと鳴る血管の音が耳障りだ。
「またあの夢か」
額に流れる気持ちの悪い汗を拭いながら、悪夢から逃れた事に安堵する。何十回と見てきた悪夢は未だに慣れない。だがこの悪夢が桂木陵にとっての唯一の救いでもある。
「この中に手掛かりがあるはずなんだ」
桂木陵には記憶が無い。月明かりに照らされながら、他の手掛かりが出ることを願いながら再び眠りにつく。
最初のコメントを投稿しよう!