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破壊と創造
この世界には、唯一、役割に縛られない存在がいる。
いや、ある意味、その行動も縛られていると言えるのかもしれない。
『ソレ』は突然、城の目の前に現れた。
巨大、としか言いようのない体躯をしていて、なんと指だけで、私の身長を大きく超えているのだ。
『ソレ』はその巨木のような指で城の屋根を摘み、バキッという音を立てて破壊した。
続けて見張り台を、大砲を、そして城門を。
城にいた者は為す術もなく地面に放り出され、倒れ臥した。
あれが伝え聞く、城を襲う者なのか。
──いや、違う。
凄まじい嵐のような破壊の跡を呆然と眺めて、誰もが思い出した。
別の人生を歩んでいたかつての自分達の世界も、こうして『アレ』に破壊されたという過去を。
かつての私は、ロケット発射場の検査員だった。さらにその前は豪華客船の乗組員も担当していた。
私の役割が変わるときはいつも、『アレ』に世界ごと破壊され、その残骸から新しい世界を創り出されたときだ。
それを思い出せるのも、『アレ』が破壊と創造を終えるまでの間だけ。
新たな役割を与えられれば記憶は封じられ、役割通りに振る舞う人形が出来上がる。
──そう、『アレ』こそは唯一役割に縛られない存在、つまり、神だ。
それも、破壊神と創造神を兼任している、恐ろしくも畏れるべき存在。
『アレ』が姿を現すとき、既存の世界はすべて破壊され、まったく新しい世界が構築される。
指の大きさからは考えられないほど繊細な動きで、素材が次々に積み上げられていく。
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