私はピラミッドの衛兵である。名前はない。

1/1

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ

私はピラミッドの衛兵である。名前はない。

 完成した世界は、金色の三角錐のかたちをしていた。  周辺の様子すらいつの間にやら整えられていて、深い緑に囲まれていた景色は、一面の砂色に変わっていた。  ──そうだ、私はこのピラミッドの衛兵である。名前はない。  偉大なるファラオの眠りを妨げないよう、墓荒らしからこの地を守るのが役割だ。  どうか安心してお眠りください、ファラオ。我らが必ず御身をお守りしますゆえ。  このピラミッドがいつから建っているのか、ファラオとはどういう人物であったのか。  知っている者は誰もいない。そもそも疑問にも思わない。そのような複雑な思考は許されていない。  私はただ、決められた役割に沿い、ピラミッドを守っていればいい。  そうすれば、いずれ。  ……いずれ?  大事な何かを思い出せそうな気がしたが、予感はすぐに霧消してしまった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加